エピソード1 「オイラは日本一の不動産王!!」
みなさん、こんにちは。白鳥(しらとり)県徴税吏員の佐々木仁之介です。
この間、3年ぶりに県外滞納整理に行ってきました。
コロナの間に組織が錆ついており、予算は取っていないは、庁内調整は無駄に手間取るは、計画より1か月遅れの遠征です。
遠征メンバーは、私(再任用職員 63歳8か月)、大猫孝子課長代理(〇〇歳5か月)、山之内正蔵再任用職員(60歳10か月)、平均年齢59歳11か月のスリーピースユニットです。
捜索セットをフォレスターに積み込み、2泊3日の関東遠征出撃です。ターゲットは4事案。
で、今回のお話は2日目の午後の事案。滞納者は自称「日本一の不動産王」のブローカー。東京都〇〇区の住宅街に自宅兼事務所の4階建ての豪邸、ガレージには高級外車が3台。
ピンポンを押すと応対したのは、社員の女性。社長は不在で女性社員が電話連絡。
「明日、払うと言っています。後、30分くらいで来るそうです。」
この女性社員を立会人に捜索を宣言しました。
「社長が警察を呼べと言っています。」
「警察に連絡するかはそちらの判断ですが、迷惑だと思いますよ。」
女性社員、110番通報。
「え~と、50代くらいの男性二人と、40代くらいの女性一人です。」
「60代男性二人と50代女性一人です!」
山之内再任用職員がこの日一番の毅然とした態度で訂正します。(そこはスルーで・・・ 笑)
山之内と大猫の二人が4階にあるという事務所に向かおうとした矢先、早くも警察官到着。
「捜索中立ち入り禁止と書いてあるけど、俺らは入ってもいいんだよね。」と話しながらやってきた警察官は総勢10人。
徴税吏員証を呈示して権限を説明し、(警察はこれに基づいて身分照会)
「公務だから。」と入室しようとする警察官を、
「こちらは既に公務を執行中です。混乱に乗じて財産が隠されたらどうするんですか!」と制しながら、速やかに4階の事務所に行って捜索するように促しました。
「怖くて行けません!」と訴える女性社員。(この人なかなかの役者でした 笑)
しょうがないので、警察官2人に同行を許可しました。
始まってしまえばこっちのものなので、捜索は二人にお任せして、私は残った警察官と談笑しながら、社長の到着を待ちます。
「お騒がせしてすみませんね。」
「こちらこそ、通報があれば来なくてはならないものですから。それにしてもすごい家とクルマですね。これも差押えるのですか?」
「耳をそろえて払ってもらえば差押えはしません。笑」
「こんなお金持ちが、なんで税金を払わないのですかね。」
社長到着。
「なんで事前に来ることを連絡しない!! 令状は持っているのか!!」
制度を説明しましたが、
「そんなことあるか! そんなはずはない!!」
「これ以上の説明はありません。後はご自分で調べてください。」
「なんだと~! 〇#&5%$#!! ××$$&#!!!」
「社長。これ以上、抵抗すると公務執行妨害になりますよ。」
玄関口にいた警察官に、
「すみません、公務執行妨害の現認をしてもらっていいですか?」
困ってしまったおまわりさん。
「社長。協力した方がいいですよ。」
この瞬間、3(徴税吏員)対14(社長、従業員、警察官)だったオセロの駒がひっくり返り、13(徴税吏員、警察官)対4(社長、従業員)に逆転しました。(笑)
以降、社長は素直に指示に従うようになりました。
シースルーのグランドピアノがある社長室に案内され、全額を納税。
「私は二十歳でこの仕事を始めて休まずに一生懸命働いて、70歳を過ぎた今では全国で800件の物件を扱っています。銀行からの借り入れは一切ありません。」
「借金をしないのは凄いですが、税金を資金繰りに利用しちゃダメですよ。」
「長年やっていますが、こんな経験(捜索)は初めてです。延滞金を払っているから良いと思っていました。」
「納期限を過ぎたらいつ払っても良いというルールは無いですよ。督促状発送後10日経過で私たちは差押えをしなければなりません。今後は納期限を守ってくださいね。」
頼まれてはいませんが(笑)、うち以外の3県税事務所の納付書も置いていきました。 翌日には、それぞれの事務所に納税するとの連絡があったそうです。(終)
この連載は100%の事実によるフィクションです。実在する団体、人物とは関係ありません。